会長 後藤隆「岐阜新部コラム 素描」|大日コンサルタント㈱

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column

01
わが国の社会資本の
現状と課題

本稿では、国や地方自治体などの行政のパートナーとして、社会資本整備における企画、調査・計画、設計などの役割を担っている「建設コンサルタント」という立場から、これからの社会資本整備について考えてみたいと思います。

社会資本とは私たちが生活を営み、産業活動を行うのに必要不可欠な道路、鉄道、橋、ダム、河川、砂防、上下水道、公園・緑地などの基盤施設を指します。行政が中心となり、公共事業として整備しています。
2011年3月の東日本大震災や昨年8月の広島での土石流災害では、多くの尊い命が奪われました。自然の脅威を思い知らされるとともに、わが国が自然災害に対して脆弱な国土であることを露呈しました。

わが国は激甚化する気象災害や切迫する首都直下型地震、南海トラフ巨大地震に備えなければいけません。ですが、橋やトンネルなど社会資本の老朽化に加え、人口減少や少子高齢化に伴う地方の疲弊といった危機にも直面しています。今こそ安全・安心で豊かな社会づくりのための社会資本整備を計画的に進める必要があります。

ただ、1997年度当初予算で9兆7千億円だった公共事業費は、厳しい財政状況の中で2012年度には、4兆6千億円まで減少しました。安倍政権となった13年度に5兆3千億円と増加に転じましたが、その後は横ばいで推移しています。今後は、前述した社会資本整備を計画的に進めるための公共事業費の継続的確保とともに、少子高齢化社会が進展する中での建設産業における担い手確保への取り組みが急務です。

02
建設コンサルタントの役割

建設コンサルタントは行政のパートナーとして、道路、鉄道、橋、河川、砂防、上下水道など社会資本の基盤施設整備のための調査・計画、設計に携わります。これを基に施工業者が施工します。また、地域やまちづくり、観光振興計画、景観計画、環境対策、地域防災対策、交通事故対策、雪害対策などのソフトの専門家として、安全・安心で豊かな社会の実現に向けて重要な役割を担っていると自負しています。

具体的な仕事内容について、かつて岐阜県から業務委託された清流長良川に架かる「鵜飼い大橋」を例に説明します。
①企画・構想段階として、設計コンセプト(意図)の立案、横断位置や構造(橋やトンネル)の検討 
②調査段階では測量やボーリング調査 
③計画段階としては橋梁形式(斜張橋やアーチ橋)の検討、周辺環境に配慮したデザインの検討 
④設計段階として、風や地震に対する安全性の検証、各種構造計算・図面作成 
⑤施工段階では施工管理
といった仕事です。

建設コンサルタント業を営む会社は、岐阜県測量設計業協会の会員が44社、全国組織である建設コンサルタンツ協会の会員は約440社です。
1952年8月に創業した当社は、幅広い分野の社会資本整備を担う総合建設コンサルタントとして、岐阜県はもとより全国47都道府県の社会資本整備を手掛けてきました。東南アジアを中心に海外でも多くの実績があります。現在、社員は約300人。今後も全社員が一丸となり、安全・安心で豊かな社会づくりを支える技術サービスの提供に努めたいと、今、あらためて思っています。

03
豪雨災害に備える

近年、気候変動の影響で勢力を増す台風や局地的大雨による豪雨災害が全国各地で頻発しています。
2011年9月の台風12号は、総降水量が1,800ミリを超える記録的な大雨となり、紀伊半島を中心に河川の氾濫や道路の寸断による孤立集落の発生など、甚大な被害をもたらしました。昨年8月に広島で発生した土石流では、74人が犠牲となる大災害となりました。

岐阜県においても豪雨災害が頻発しています。古くは1976年の9.12豪雨で安八町の長良川右岸堤防が決壊。2004年の10.20豪雨では、宮川に架かるJR高山線の橋梁が流出しました。10年の7.15豪雨では、可児市と八百津町で、昨年8月の豪雨では、高山市で局地的な集中豪雨が発生し、甚大な被害が出ました。
対策として、洪水を防ぐためには▽川底を掘り下げる▽河川幅を広げる▽堤防を高くするなどの河川改修により、流せる水の量を増加させる。土石流災害を防ぐためには、上流から流れてくる土砂を受け止めて貯める砂防えん堤を整備するなどの対策があります。しかし、これらのハード対策のみで局地化・集中化・激甚化する豪雨災害を防ぐことは至難です。

私たちがずっと安全で安心して暮らすためには、ハードの対策だけでなく、災害の危険性を伝えるためのハザードマップの作成、分かりやすい気象情報の提供、避難体制の充実・強化などのソフト対策を適正に組み合わせることが必要。「まず人命を守る、経済的な損失の軽減、大きな二次災害の防止」などを目標とした防災・減災対策が重要です。

04
巨大地震災害に備える

2011年3月に発生した東日本大震災は、巨大津波により広域で壊滅的被害が発生した上、収束が見通せない原発事故など、わが国にとって例をみない巨大な災害となりました。だからこそ私たちが住むこの中部地方においても、高い確率で起こるとされている南海トラフ巨大地震に対しての備えが必要です。

南海トラフ巨大地震が発生すれば、岐阜市内は震度6弱~6強の揺れが予測されています。さらに地震継続時間が4分と長いため、市内の半分近くで液状化(地震の震動により地盤が液体状になり、建物などを支持できなくなる現象)が起こるおそれがあるとされています。だからこそ、建物の耐震化など防災、減災対策は急務です。
社会資本においても、橋梁などの構造物および河川の堤防、ため池等の耐震化を進めることで、より安全性を向上させる必要があります。

1995年の阪神・淡路大震災以後、大規模地震時に倒壊など致命的な損傷が起こらないように構造物の耐震基準が見直されました。新設のみでなく、既存の構造物の耐震補強も計画的に実施されています。
東日本大震災の激しい揺れにもかかわらず、新幹線や道路の橋梁被害が少なかったのは耐震補強を行った効果です。さらに道路は被災者救援や復旧支援に加えて、防潮堤や避難場所としての役割も果たし「命の道」として見直されました。

だからこそ、岐阜県内でも緊急輸送に使用する重要な路線の整備促進や道路幅の拡大、道の駅を防災拠点とするなどの防災機能の強化、避難路・避難場所の整備を進める必要があります。

05
社会資本の老朽化対策と
維持管理(上)

2012年12月に発生し、9人が亡くなった中央自動車道笹子トンネル(山梨県)の天井板落下事故は、国内の高速道路上の事故で最も死者数の多い大惨事でした。

施工後約35年が経過し、天井板を吊り下げるためのボルトを固定する接着剤の劣化が主要因とされていますが、適切な点検と対策がなされていれば防げた事故であり、社会資本の維持管理の重要性を示しています。
わが国の社会資本のうち、標準的耐用年数とされる建設後50年を経過する基盤施設の割合は、約10年後には道路橋や河川管理施設で半分近くに達する見込みです。社会資本の老朽化がこれまで以上に問題になります。こういった背景から、2013年に「インフラ長寿命化基本計画」が策定され、国・地方自治体が社会資本の維持管理・更新を着実に推進することになりました。

道路は14年に点検が法律で義務化されました。全国にある約70万橋の橋梁や約1万のトンネルなどは5年に1回、近接目視で点検し、健全度を診断・記録します。岐阜県内には約2万6千の道路橋と365のトンネルがあり、その数は全国トップレベルです。

ここでちょっと計算してみます。今後、公共事業費の伸びが前年比プラスマイナス0%で推移すると仮定し、維持管理や更新をこれまで通りに対応するとどうなるか。維持管理・更新費が公共事業費全体に占める割合は10年度の時点で50%ですが、20年後の37年度には公共事業費全体を上回り、新規の公共投資はできないことになります。わが国は本格的な維持管理・更新の時代を迎えているのです。

06
社会資本の老朽化対策と
維持管理(下)

超高齢社会に入ったわが国は、医療費の増大が社会的な大問題となっています。その対策として、治療重点の医療から病気の予防を重視した予防医療(健康診断を受け早期発見・早期治療)への転換が今、図られようとしています。

社会資本に関しても同様で、これまでの悪くなってから対策を施す「事後保全」から、施設の長寿命化を図るための維持管理計画を策定し、点検により劣化などを早期に発見し適切な対策を行う「予防保全」に移行する必要があります。

さらに、維持管理・更新する社会資本の重点化や、効率的で効果的な維持管理と更新のための技術開発などによって、さらなる維持管理や更新費の縮減が必要だと考えます。
予防医療では、健康を維持促進して病気にかからないようにする1次予防を重視しています。社会資本においても同様で、橋梁や舗装に負荷を与える過積載車両の通行の取り締まり強化、情報技術の活用による集中する交通の分散など、社会資本を大切に賢く長く使うことも重要です。

当社は将来の維持管理に関する社会ニーズに応えるため、橋梁だけを対象としていた担当課を2007年に保全部として独立させ、道路施設、河川・砂防施設、公園などにも対応できるようにしました。
さらに、維持管理戦略推進会議(イジセン)を立ち上げ、点検・診断・修繕・更新における技術開発や技術向上並びに人材育成、産学官連携による共同研究などに取り組んでいます。今後最大の課題である維持管理に関して、業界トップクラスの会社を目指しています。

07
人口減少・少子高齢化社会
への対応

わが国は少子高齢化(少産多死化)による人口減少が進行し、いまや4人に1人が65歳以上の、本格的な少子高齢化社会となっています。
現在の人口1億2700万人は、2050年に9700万人へと約25%減少すると予測されています。これに伴って地域社会の活力の低下、労働力減少による経済活力の減退、過疎地域等における集落の生活機能の低下が進むことが懸念されています。

活力ある地域社会を創出、維持するには、高齢者、障がい者、子育て世代など、あらゆる人が積極的に社会参加することが重要です。その参加を支える社会資本は「どこでも、だれでも、自由に、使いやすく」というユニバーサルデザインの考えを取り入れる必要があります。公共交通機関や建築物、歩道等の歩行空間の一体的、連続的なバリアフリー化など、既存の社会資本の改良が必要です。

経済活力を維持するには、個性を持った周辺都市同士を交通ネットワークで連携させることにより「圏域」を形成して、一定の人口を維持し、地域経済のけん引、生活関連サービスの向上を図ることも考えられます。
集落の生活機能を維持するには、生活サービスを効率的に提供することが必須。買い物や医療等の日常生活を支える機能を、道の駅などを活用して集約することも一案ではないでしょうか。

さらに、ドアツードアの移動ができる公共交通サービス「デマンド交通」や、共同宅配などの活用で周辺集落とのネットワークを形成することで、各集落の生活機能は維持できるのではないかと、考えます。

08
社会ニーズに応える

先日の当欄で、社会資本の維持管理に強い会社を目指す「維持管理戦略推進会議(イジセン)」の取り組みを紹介しました。その他、当社は社会政策業務に対応するための「社会政策戦略会議(シャセン)」を設置しています。
エネルギービジョンの策定や次世代自動車の普及促進等のエネルギー分野、地域の活性化計画、観光計画、事業継続計画などについては、既に多くの業務を手掛けています。

現在、地方創生関連の計画、人口減少問題対策、獣害対策等の農村振興、官民連携での事業推進などの事業化に取り組んでいます。今後も社会ニーズに応えるべく、新しい技術の習得・開発、人材育成に注力していきたいと考えています。

これまで私は、わが国の社会資本の現状と課題、ならびに今後の社会資本整備の在り方についてさまざま述べてきました。東日本大震災以後、社会資本整備に対する国民の意識は、無駄な道路建設などの批判的な見方から「国民の命と暮らしを守る事業」へと、確かに変化してきています。

このような変化の中で、今後安全・安心で豊かな社会づくりのための社会資本整備を計画的に進めていくには、無駄な公共事業は行わないことはもちろん、さらに事業の重要性を国民に分かりやすく伝え、共感を得ることが大切です。その共感が小学生から大学生の若い人に広がり、一人でも多くの若者がこの仕事に就きたいという気持ちへとつながっていくことが重要です。
今回の連載が、社会資本整備への理解と担い手不足の解消に少しでもつながれば、幸いです。

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